
取材・文 藤岡 麻美
妊活中はメンタル面の不安が大きくなるもの。
「妊+(nintasu)」では、不妊に悩む人と不妊専門カウンセラーとのマッチングを行っています。
この記事では妊活を経験した女性のリアルストーリーをお届けします。
前編では妊活で感じ始めた夫婦の温度差についてお届けしました。
後編ではそれぞれの夫婦が見つけた「夫婦のかたち」についてお伺いします。

登場人物プロフィール
Sさん:2人目不妊。不妊治療はせず体質改善で妊娠。妊活中は能天気な夫にイライラ。
Mさん:9回の体外受精で2人授かる。不妊治療のためパート勤務に変更。喧嘩はしないがぎくしゃく。
Yさん:不妊治療ののち里子を迎えた。不妊治療のためパート勤務に変更。不妊治療中(後半は里親研修)と里親の時期は夫と口論が増えた。
Aさん:仕事をしながら不妊治療中。妊活を機に夫婦関係がよくなった。気持ちを伝えるのが苦手。

少しずつ見えてきた「パートナーの本音」
―妊活をしていると夫婦で分かり合えないときもあると思うのですが、工夫したことはありますか?
Sさん:夫は真剣に話すような空気が好きではないのですが、それでも「私はこう思っている」「あなたはどう思っているの?」という会話をして意見や価値観のすり合わせをするように意識しました。実際に夫の気持ちや意見を聞いてみると、私に寄り添った考えをしてくれていることにも気づきました。私が勝手に「夫はこう思っているだろう」と思い込んでいることが結構あって…
伝わっているだろうと思うのではなく、しっかりと言葉で伝えるようにしました。
Mさん:私は面と向かって伝えるのが苦手なのでLINEで伝えるようにしました。クリニックの帰りに「うまくいかなかった…」という感じで悲しい気持ちや落ち込んでいることをLINEで送っていましたね。家につくと夫が「よし次がんばろう」「お酒でも飲もうか」と声をかけてくれて、一緒に頑張っている心強さを感じることができました。
Yさん:私たちは時間を重ねて徐々にお互いの気持ちを整理した感じです。楽しく暮らしてはいるけどどこかひっかかりのある感じが不妊治療をやめても2,3年はずっとありました。だけど、時間が経ってふと「くだらないことで怒っていたな」と振り返られるようになってから気持ちが楽になった気がします。

乗り越えたからこそ「バディ」になれた
Aさん:私たちは不妊治療をはじめて夫婦で話す時間が増えたので、体外受精をする頃には「うちらバディだよね」と言い合える関係になりました。私は人に弱みを見せるのが得意ではなく、夫に対しても自分が我慢をすればいいと思って接していたけど、夫に「もっと思っていることを言ってほしい」と言われた時に、このままではいけないと感じて改善していきました。
私のダメな部分も受け入れてどう改善していくのかを一緒に考えてくれたことで「この人なら話してもいいかな」と思えて、少しずつ自分の気持ちを伝えられるようになりました。
Yさん:私はAさんみたいに短期間で話せるようにはならなかったけど、不妊治療の長い年月を経て同士になれた気がします。里親をやってみようと思えたのも不妊治療で同士になれたからできたと感じています。
Mさん:私は今、パートをしながら子育てをしていますが、やっぱり今も社会に出たいという欲はずっとあります。一方で、夫はパートで働く私をうらやましく思っていて仕事に対する価値観が全くちがうので、無理に合わせるのではなくお互いの価値観を受け入れています。不妊治療も子育ても女性に負担がかかることが多い中、お互いの価値観を受け入れて尊重し合えないと同士にはなれないんだろうなと思います。
不妊治療をきっかけに尊重する大切さを学び、育児にも役立っていると感じます。

「夫婦のかたち」それぞれの答え
―最後に妊活をしているときに「パートナーのこの言葉に救われた」「この人と結婚してよかった」と感じたエピソードを教えてください。
Yさん:私たちは原因不明の不妊だったので、どこかで不妊治療をやめる決断を自分たちの意思でしなければなりませんでした。そのなかで何度も夫に言われてうれしかった言葉は「ふたりでもいいんだ」という言葉です。そう思ってくれているならそれでいいか、と肩の荷が下りました。最初は反対されていた里親も、一緒に説明会に参加して勉強したり情報収集をしたりして最終的に決断してくれたこともうれしかったですね。
Sさん:私の夫は口下手なのでそんなにしゃべりません。だからこそ行動でダイレクトに気持ちが伝わってくるときに寄り添ってくれているんだなと感じます。家事をしてくれたりひとり目のお世話をしてくれたりして私の体を労ってくれる。言葉じゃなくて行動がすごくうれしかったです。

―Sさんは言葉で伝えることを意識していたけどパートナーさんからは行動で伝わってくるのがうれしかったんですね。夫婦間で伝え方が同じじゃなくてもお互いの伝え方を尊重すれば、ちゃんと意思疎通ができてコミュニケーションもとれますね。Mさんはどうですか?
Mさん:私が夫に言われて一番印象に残っている言葉は「今まで頑張ってくれてありがとう」という言葉です。流産を繰り返して「もうこれで不妊治療はやめよう」と思っていた時にLINEでこの言葉をもらいました。夫が「自分は何もできない無力感」を感じている中でかけてくれた言葉のように感じて、一緒に頑張ってくれていたことを実感してすごくうれしかったです。スクショしていまも保存しています。
Aさん:私は不妊治療で悲しいことや苦しいことが起こった時に、私の気持ちをひたすら聞いてくれて寄り添ってくれるのがうれしいです。アドバイスとかではなくただ聞いてくれるだけでスッキリします。私にとって夫は絶対的な安心者の存在になれているので「本当にこの人でよかった」と思います。親よりも「夫との暮らし」が一番安心する場所になっているので幸せだと感じます。

エピローグ
今回「妊活中の夫婦関係」をテーマに選んだのは、不妊治療中の「孤独」にずっと引っかかっていたからでした。
治療が長くなると、友達とも少しずつ疎遠になって、気づけば“夫婦ふたり”の世界に閉じこもってしまうような感覚になる。
でも、その小さな世界の中でさえ、うまくいかないことが出てくる。
そうなると、いっそう孤独が深まってしまうように感じていました。
だからこそ、誰かの経験を聞くことで
「他の夫婦も同じように悩んでるんだ」
「私たちも大丈夫かもしれない」
と、少しでも心がゆるむきっかけを届けたいと思いました。
そして、夫婦の形も感じ方も本当に人それぞれ。
これが正解というものはありません。
大切なのは、
ふたりが自分たちなりのペースで歩いていくこと。
妊活は、『子どもを望む夫婦の前向きな行動』です。
どうか自分たちらしく、進めていけますように。
妊活中のメンタルケアは「妊+(nintasu )」


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