
取材・文 藤岡 麻美
妊活中はメンタル面の不安が大きくなるもの。
「妊+(nintasu)」では、不妊に悩む人と不妊専門カウンセラーとのマッチングを行っています。
この記事では妊活を経験した女性のリアルストーリーをお届けします。

プロローグ
今回「妊活中の夫婦関係」をテーマに選んだのは、不妊治療中の「孤独」にずっと引っかかっていたからです。
治療が長くなると、友達とも少しずつ疎遠になって、気づけば“夫婦ふたり”の世界に閉じこもってしまうような感覚になる。
でも、その小さな世界の中でさえ、うまくいかないことが出てくる。
そうなると、いっそう孤独が深まってしまうように感じていました。
だからこそ、誰かの経験を聞くことで
「他の夫婦も同じように悩んでるんだ」
「私たちも大丈夫かもしれない」
と、少しでも心がゆるむきっかけを届けたいと思いました。
そして、夫婦の形も感じ方も本当に人それぞれ。
いろいろな人の話を聞くことで、
「この考え方、うちに近いかも」
「私もそんな気持ちになったことある」
そんな“共通点”を見つけてもらえたらと思って、今回4人の方にお話をお伺いしました。

登場人物プロフィール
Sさん:2人目不妊。不妊治療はせず体質改善で妊娠。妊活中は能天気な夫にイライラ。
Mさん:9回の体外受精で2人授かる。不妊治療のためパート勤務に変更。喧嘩はしないがぎくしゃく。
Yさん:不妊治療ののち里子を迎えた。不妊治療のためパート勤務に変更。不妊治療中(後半は里親研修)と里親の時期は夫と口論が増えた。
Aさん:仕事をしながら不妊治療中。妊活を機に夫婦関係がよくなった。気持ちを伝えるのが苦手。

「静かなギクシャク」
妊活をはじめた頃の夫婦関係
―今日は、妊活中の「夫婦関係」について、みなさんのリアルな気持ちを聞かせてください。妊活をはじめた頃の関係はどうでしたか?
Mさん:私は体外受精で2人授かり、トータルで8年くらい妊活をしていました。不妊治療をはじめて1年くらいは自分の気持ちを整理する余裕がなく、全然かみ合わない日々でした。うまくいかない妊活に混乱してイライラしている私の姿を見て、夫も私をどう扱っていいのかわからなかったと思います。表面的には仲はよかったけど、ぎくしゃくしていました。
Sさん:私は不妊治療をしていませんが妊活中は温度差を感じていました。生理周期も50日くらいあっていつ排卵しているのかもわからない状況に私は焦りを感じていましたが、夫は能天気というかおおらかというか。強い口調では言わないけど私のイライラが伝わるように雰囲気を醸し出していました。
Aさん:私は結婚した当時、自分の気持ちを伝えるのが苦手でした。家事をしている時に夫がリビングでくつろいでいる姿にイライラしていたけど、その気持ちを伝えられずに泣いてしまったりしていました。だけど不妊治療をすることになって嫌でも話をしなきゃいけない時に、少しずつ自分の気持ちをぽつりぽつりと話すようになっていきました。

「普通に働けていいね」
不妊治療とキャリアの壁
Yさん:私たちはぎくしゃくよりも喧嘩が増えました。
「私はこんなに治療を頑張っているのに、なんで平気で仕事に行けるの」
と夫に言っていました。私は夜勤がある仕事だったので不妊治療をするためにパートに切り替えました。同年代の友達が出世していくことをうらやましく思う気持ちもあるし、不妊治療をするためにフルタイムで働くことをやめたのに友達からはいい暮らしをしていると思われて複雑な気持ちになることも…いろいろな思いが交錯して出世する夫のことも許せなくなっていきました。
Mさん:私も全く同じことを思っていました。ずっと正社員で働き続けたいと思っていたけど不妊治療を優先してパートに働き方を変えました。その選択をしたのは自分だけど、意気揚々と「行ってきます」と出勤する夫をうらやましく見ていました。「普通に働けていいね」と言ったこともあります。
Sさん:仕事に対する思いやスタンスで感じ方もいろいろありますね。私はどちらかというと夫に稼いできてほしいと思っているので「普通に働けていいね」という言葉がすごく新鮮です。私のスタンスは仕事を調整しながら家庭のこともしつつ自分のやりたいこともやらせてもらっている感じです。YさんやMさんのように不妊治療のストレスに加えて仕事へのストレスも大きくなるとさらにしんどさが増しますね。

「気持ちを伝える」それでも感じる孤独
―妊活で夫婦の温度差が生まれてすれ違うことってどの夫婦にもありそうですね。温度差が生まれたときはどうしていましたか。
Sさん:2人目をなかなか授かれずに焦りが増していた時は温度差を感じました。ひとりで抱えきれず自分の気持ちを夫に伝えるんですけど言いすぎると「もう、これ以上は言うなよ」という雰囲気を感じたことはありますね。妊活中はうまく話し合うことはむずかしかったです。時間が経って少しずつ夫婦で話し合えるようになったり思い合えるようになったりしたように感じます。
Yさん:私も「これ以上言ったら終わりかな」と思ったことはありますね。私たちは不妊治療をして里親という道を選んだのですが、里親をしたときにも同じような経験をしました。仕事に行けていいよねとか、不妊治療中に感じた夫への温度差をもう一度感じる経験でした。不妊治療でも里親でも自分だけが制限していると感じたときに温度差を感じて夫にぶつけていましたね。
Aさん:私は不妊治療をはじめて夫との関係性はよくなったと感じています。だけど夫が仕事の悩みを抱えていた時に「今は子どものことを考えられない」と言われたことがありました。これまで一緒に歩んできた人が急にいなくなった感覚を味わって、そこで初めて夫との価値観のちがいや孤独を感じてすごくつらくなったことがあります。

「誰かに話す」話すことで見えた光
―一緒に歩んでいると思っていた人がいなくなってしまったと感じたとき、どのように気持ちを整理したのですか。
Aさん:これまで不妊治療で悲しかったことも全て夫に話していたので、夫婦としてのパートナーだけでなく心を開いて話せる相手も失った悲しみを感じました。ほかに話せる相手もいないし、でもひとりで抱えることもできない。そんなときにクリニックでのカウンセリングを思い出してすぐに予約をとりました。不妊治療の内容を相談するよりも夫との関係性についてとにかく聞いてもらいました。
その中で少しずつ気持ちを落ち着けられるようになって夫の気持ちが回復するのを待ってみようと思えるようになりました。
Yさん:私もカウンセリングを受けたことがあります。不妊治療の進め方を悩んでいた時に友達から「ちょっと夫婦で話し合えていないんじゃない?」と言われたことをきっかけにカウンセリングを受けてみました。カウンセリングで話したことで「あの時はいっぱいいっぱいだったから仕方ないよね」と自分の中で客観的に振り返られるようになって少しずつ日常でも気持ちを整理できるようになりました。

Mさん:AさんもYさんも第三者に話したことが前向きになるきっかけになったんですね。私は第三者に頼ることができなかったし、友達にも話せなかったのでもっと話を聞いてもらえばよかったなと思いましたね。
Aさん:私もこれまで夫以外の人に頼れなかったんです。夫に話せなくなって初めてカウンセリングを受けました。これまではクリニックでカウンセリングの「チラシ」はもらっていたけど「興味ないし、大丈夫だし」と思っていました。本当にどうしようもなくなった時にそのチラシを思い出して受けてみたという感じです。
Mさん:その「大丈夫だし」という気持ちがすごくわかります。だけど大丈夫のレベルがみんな高いんですよね。妊活をしている人はすごく頑張っているし我慢していることもたくさんある。それを話す場所がないというか術を知らないというか。
Sさん:私も第三者に頼るという考えが全くなかったです。カウンセリングを受けるってハードル高いし、話を聞いてもらってどうなるのかのイメージができないから受けたことないですね。第三者に話してどんな答えが返ってくるのかばかり考えちゃいます。ある程度信頼関係のある人なら話せるかもしれないけど。もともと一人で何とかする性格なのでカウンセリングはかなりハードルが高いです。
Yさん:私は真逆でしたね。夫のことを知らない第三者に好きなだけ夫との出来事を話したかったです。私は夫のこの言葉に傷ついたとか自分が傷ついたことを洗い出して自分のことを認めてあげたかった。夫のことを知っている人に話すときはやっぱり遠慮しないといけないですよね。夫のことをかばわれると自分の気持ちを思いきり話せないし、逆に夫のことを悪く思われすぎるのもいやだし。
話すのか話さないのか。話すなら誰に話すのか。むずかしかったです。だけど、ひとりでは抱えきれなかったし、夫との関係をどうにかする前にまず自分の気持ちを整理することが必要だと思ったので、カウンセラーに気持ちの整理を手伝ってもらいました。
友だちにも家族にも話しにくい妊活中の夫婦の問題。
ひとりで乗り越える人もいれば、
第三者に頼る人もいる。
後編では【妊活でぎくしゃくした夫婦関係をどのように絆に変えていったのか】をお届けします。
妊活中のメンタルケアは「妊+(nintasu )」


コメント